カトリック神戸中央教会

Kobe Central

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赤波江 豊神父
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黙想のヒント 年間第26主日

「この貧しい人は死んで、天使たちによって宴席にいるアブラハムのすぐそばに連れていかれた。」(ルカ16:22)

今日の福音のテーマは富への誘惑に対する警告です。
今日の福音に限らず、イエスはしばしば福音書全体を通して、富への誘惑について述べています。(マタイ19:16~24、ルカ12:13~21など)
しかし、イエス自身金持ちと付き合い、食事も共にしました。
富やお金は決して悪いものではなく、むしろ大切なものです。教会も常にその恩恵に浴しています。また利益を求める心は事業や人間活動の原動力となるものです。
しかし今日の福音が警告するように、富は独占するものではなく分かち合うものなのです。

ドイツの政治学者で社会学者のマックス・ウェーバーによると、資本主義の担い手はもともと敬虔なプロテスタントで、彼らはイエスが説く隣人愛を実践するため厳しい倫理規範を守り、労働を尊びながら、その利益は社会の発展のため活かすことを信念としていました。
かつてアメリカにアンドリュー・カーネギー(1835~1919)という人がいました。
彼はスコットランドの貧しい家庭に生まれ、両親とともにアメリカに移住した後、豊かな生活を求めて職を転々としながら、やがて頭角を現し、これからは鉄鋼の時代が来ることを予測して鉄鋼会社を興し、やがて巨万の富を手にして世界の鉄鋼王と呼ばれるまでになりました。

しかし彼は「金持ちのまま死ぬのは、恥ずべきことだ」という言葉を残し、人生の後半その財産の全てを使って、特に慈善事業、世界平和、教育、学術振興などに貢献したのでした。
特に、貧しさ故に独学で学んだ彼は、図書館のおかげで勉強することができたことを感謝し、アメリカ全土だけではなく、世界中に約3000の図書館を寄贈しました。
今でもカーネギー協会は学術振興や慈善事業などに尽くした人を毎年表彰しています。

最近、京セラの名誉会長稲盛和夫氏(1932~2022)が亡くなられましたが、彼は仏教に深く帰依された人で、27歳で京セラを立ち上げた頃は経営の素人でした。
悩んだ挙句彼は経営方針として、とにかく人間として正しいことは正しいままに貫くことを決心しました。
会社が大きくなってからも人から経営のコツや秘訣を聞かれると、「感謝の心を忘れるな、嘘をついてはならない、人に迷惑をかけるな、正直であれ、欲張るな、自分のことより人のことを考えよ」…とか。

しかしこれを聞いた人は皆一様に怪訝そうな顔をするのでした。
「そんな単純なことで経営が成り立つのか。そんな単純なことは子どもの頃、親や先生から聞いてきた。」というような表情で。
しかしこの誰でも知っているはずのこの「単純な原理原則」が実践されていないから、一時的に利益を上げて成功しても、やがて破綻する会社が多いのです。
利益追求は決して悪いことではない。しかし、その方法は人の道に沿ったものでなければならない。手段を選ばず儲けに走ってはならならず、利益を得るにしても人間として正しい道を踏まなくてはならない。
そうして人の幸せを願う利他の精神が、めぐりめぐって自分にも利をもたらし、またその利を大きく広げもする、というのが彼の持論でした。

稲盛氏は仏教の利他の精神に生き、またアンドリュー・カーネギーの「個人の富は社会の利益のために使われるべきだ」という精神にならい、彼自身の莫大な財産を拠出して稲盛財団を作って1985年に日本初の国際賞である京都賞を創設し、学術分野で素晴らしい業績をあげ貢献した人たちを毎年表彰しています。
しかし注意すべきは、自分の利益のみを追求する「利己」と人の幸せを求める「利他」はいつも表裏一体の関係にあるということです。

ここにイエスの警告の核心があると言えます。
人のためにと言いながら、気が付いたら自分のことだけ考えたり、あるいは自分の家庭や会社の利益のみを優先する誘惑は絶えず付きまといます。
そのような誘惑に陥らない秘訣は、仏教やキリスト教などの宗教が共通して説き、多くの賢人たちが実践してきた「単純な原理原則」、即ち、絶えず周囲に感謝の心を忘れず、偽りなく真実を語り、自己の利をむさぼらず、人の幸せを願うことなど、これ以外に道はないと私は思います。

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