カトリック神戸中央教会

Kobe Central

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赤波江 豊神父
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黙想のヒント 受難の主日A年

「本当に、この人は神の子だった」(マタイ27:54)

マタイ福音書は、他の福音書でも同様ですが、イエスの宣教活動を淡々と述べた後、受難物語になると刻一刻と苦しみが迫ってくるように、まるで舞台劇の台本のように詳細に述べています。
通常、福音書は司祭が代表して朗読しますが、今日全世界の教会は、この受難物語を司祭は信徒全員と分担して朗読します。
このように全員で朗読することによって、イエスを十字架につけたのは当時のユダヤ人だけではなく、今も私たちは罪によって、イエスの手に釘を打ち続けていることを実感するためなのです。

完全な敗北と思われたイエスの受難と死の最後に、百人隊長らは「本当に、この人は神の子だった」と言いますが、この一言はマタイ福音のクライマックスであり、この一言を言わせるために長い受難物語があるのです。
イエスの真の強さである復活は、この完全な敗北と思われた弱さの中から生まれました。

私たちも同様で、私たちの強さは、自分の弱さを受け入れ認めるところから育つのです。
普通私たちは、強くなろうと思えば思うほど、自分の弱さが気になり、それを隠そうとして却ってよくない結果を残してしまいます。
そうではなく、自分の弱さを受け入れ認めることによって、強くあらねばならないという強迫観念は消えるのです。
そうでないと、弱さを隠しながら強そうに、かつ怯えながら振る舞い、やがていつか倒れてしまうことになります。
強い人になるためには、強い人のまねをするのではなく、自分の弱さを受け入れ認めることによって、自分が弱いと思っていたところが、実は自分の真の強さであることに気付くのです。

イエスはその生涯の全てを、受難と死において完全燃焼しました。
しかし、そこからこそ復活によって新しい力が生まれました。
力というものは、そして愛というものも、完全に出し尽くさないと増えないのです。
出し惜しみしては減る一方なのです。かつて神戸製鋼ラグビー部に、平尾誠二さんという監督がいましたが、彼は伏見工業高校時代、当時の山口先生からよくこう言われたそうです。
「人間の力は全部出し切らないと増えない。だから余すところなく使わなければならないのだ。今10ある力を全部出し切ったら、次には10,001くらいになる。次の試合でその10,001を全部使い切ったら、次には10,002くらいに増える。出し切らずため込んだら、逆に減ってしまうのだ。」
そして、最後の締めくくりはいつも、「それがお金と違うところだ」と。

「人間の力は全部出し切らないと増えない」とは体力のことだけではなく、心にこそ当てはまるのです。
私たちも神からいただいた大切な心、日々人のために使い切りましょう。
決してなくなることはありません。
却って私たちは、誰か人のために生きようと決意したとき、自分の限界を乗り超えることができるのです。

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